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乱世の救世主

エッセイ

シリーズ・エッセイ19
乱世の救世主
前川正倫

 アメリカ発の金融危機、無差別連続殺傷事件、食の安全問題等、昨年国民を震撼させた事件を 挙げたらなんと多い事やら。社会現象が負の連鎖を生んでるとしたらなんと怖い事か。

 こんな時代だからこそ心の教えが必要ではないでしょうか。仏教でいう、「無財の七施」を紹介しましょう。

一、捨身施 ― 自分が出来る事を喜んでする
一、心慮施 ― 他人に心配りをする
一、和顔施 ― いつもニコヤカな顔で人に接する
一、慈顔施 ― 慈しみの眼ですべてを見る
一、愛語施 ― 相手がなごやかに感じるように話す
一、房舎施 ― 風雨をしのぐ所を譲る
一、床座施 ― 乗り物で人に席を譲る

 これらは他者への施しですが、実はのちのち自分自身に返ってくる行いです。

 論語に「夫れ仁者は、己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す。」とあります。いまの社会に蔓延している「自分だけよければいい」という風潮を約二千五百年以上前の《論語》は戒めています。人間《ホモサピエンス》は、どんなに科学が発達しても、その根本の部分では全く変わっていない事を思い知らされます。「人はいかにして生きるべきか」を自問自答する事がこの乱世には必要ではないでしょうか。

 八世紀後半に成立した《万葉集》は、現代人の心に今でも魅力いっぱいの歌集として受け継がれています。難解な歌もありますが、中学生でも十分理解できる歌も多数あります。古典としてのみならず、現代人が気軽に楽しめる「生きた」歌集であることは事実です。

 千二百年以上の歴史を刻み、古代人と同じ心情を共有し続ける日本人の素晴らしさ。一方で冒頭に述べた国民を震撼させる事件。同じ人間の行動が成せる業なのに、どうして?と思われる人も多いはず。一因は二十年以上前から急速に発展した情報通信技術革新いわゆるIT革命にある事は否定できないでしょう。残虐、痴情等人間の心の裏に潜む好奇心を貪る情報を、人を介さず直接入手出来るようになり、それ故に人格を破壊しやすくなる。IT革命は、人々に便利さをもたらす反面親子関係さえ希薄にさせています。人間の性でしょう。便利さをついつい追及してしまいます。

 ではこの現代社会でITの罠にハマらない手立ては無いのでしょうか。

 「ギーリとニンジョーを秤りにかけりゃ、ギーリが重たい男の世界」高倉健だ。ご存知《唐獅子牡丹》の歌い出しである。

 日本人は長い間、神道の精神を背景にした、《義理》《人情》で結ばれた特有の人間関係を築いてきました。でも、残念ながら、神道が日本の社会や文化の安定の礎である事を理解している人はあまりいません。他者をいたわり自然と共生する神道的発想が、荒廃した心を癒し、生命が軽んじられる風潮を和らげる核に成ると思います。

 神主さんの地道な活動によって、この難局を乗り切りたいものです。

(新潟市中央区・湊稲荷神社宮司)
【平成21年1月1日「庁報新潟」第85号より】
※内容は庁報掲載時のものです。

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